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韓国 — 「人口あたり世界一」を達成した小国の AI 医療輸出戦略

韓国の MFDS (식품의약품안전처、日本の PMDA に相当する規制当局) は、2022 年末の時点で AI 医療機器を累計 149 件承認していました。

Edited by YOSHI.TOMO FURUSAWA · Gloversal, Inc. CEO
2026-07-03·13 min read·Tokyo
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韓国の MFDS (식품의약품안전처、日本の PMDA に相当する規制当局) は、2022 年末の時点で AI 医療機器を累計 149 件承認していました。

人口 5,200 万人。AI 医療機器の人口あたり承認数で世界最密度です。

米国 FDA の AI/ML 対応医療機器累計承認数は 2024 年 8 月時点で 950 件超ですが、人口は約 3.4 億人。日本の PMDA は 2025 年時点で 50 件程度。承認の総数では負けても、人口あたりで見ると韓国が一番手厚い AI 医療規制を整えてきた国になります。

しかも 149 件のうち約 7 割が画像診断系。CT / MRI / 胸部 X 線 / マンモ / 眼底 / 骨折 / 病理。放射線科領域の集中度は突出しています。

なぜ韓国だったのか。今回はこの問いから始めます。


国家輸出戦略としての AI 医療

韓国の AI 医療産業を語るときに外せないのが、国家輸出戦略という文脈です。

韓国は人口 5,200 万人、市場規模としては大きくありません。スタートアップは最初から「韓国国内では足りない、世界で売る」を前提に設計されています。サムスン、現代、LG が同じパターンで世界を獲ったのと同じ構造です。

政府もこれに合わせて、保健福祉部 (보건복지부) と産業通商資源部 (산업통상자원부) が 2018 年から AI 医療機器を「国家戦略輸出産業」と明示的に位置付けています。MFDS の承認スピードはこの戦略の支援装置です。

数値で確認できる成果が出始めたのは 2022 年。

Lunit (루닛、KOSDAQ: 328130) が 2022 年 7 月に IPO。胸部 X 線 AI と乳房マンモ AI の二本柱で、韓国国内よりも欧州 (CE Mark)、米国 (FDA 510(k))、中東、東南アジアでの売上が先行する形になりました。

VUNO (뷰노、KOSDAQ: 338220) は 2021 年 2 月に IPO。VUNO Med-Chest X-ray、VUNO Med-DeepCARS (急変予測)、VUNO Med-Fundus AI (眼底)。心電図 AI で米国 FDA De Novo を 2021 年に取った韓国第 1 号。

Coreline Soft (코어라인소프트、KOSDAQ: 393890) は 2024 年 9 月に IPO。AVIEW LungScreen、AVIEW NeuroCAD。EU の HANSE 肺がん検診プロジェクト (2022 年開始、9 病院、5,000 人規模) で採用されたのが信用に直結しました。

3 社が IPO したというだけで終わらないのは、上場後の R&D 投資で次世代モデルを更新し続けているからです。Lunit は INSIGHT MMG-DBT (3D マンモ) を 2024 年に発表、VUNO は心電図 AI を 4 ヶ国に展開、Coreline は肺がんスクリーニングの欧州 8 ヶ国 12 機関への横展開を 2025 年中に進めています。


Lunit CXR 2024 HIRA 償還の意味

韓国の AI 医療産業にとって 2024 年は構造的転換点でした。

HIRA (健康保険審査評価院、건강보험심사평가원) が Lunit INSIGHT CXR の使用に対する診療報酬上の付加点数を認めたのです。胸部 X 線で AI 補助を使った場合、医療機関が追加報酬を請求できる仕組み。

これは何を意味するか。

これまで AI 医療機器の問題は「導入した方が安全だが、追加コストを誰が払うのか」でした。病院が自腹で買い、診療単価は変わらない。AI を使っても使わなくても保険の支払いは同じ。だから病院は「導入しないほうが経済的に合理的」と判断するインセンティブが残っていました。

韓国 HIRA は、AI 補助使用に対して別建ての請求コードを認めました。1 撮影あたり数百ウォン (数十円) 程度の上乗せですが、年間数百万件の胸部 X 線で計算すると医療機関の AI 投資が回収できる水準。

世界で AI 医療機器に対して保険償還が認められた例はまだ少ないです。米国 CMS は 2020 年に Viz.ai (脳梗塞 LVO 検出) を NTAP (新技術付加支払い) で認めましたが、これは入院加算で外来診断ではない。ドイツ G-BA は AI を含む DiGA を診療報酬に乗せていますが、画像診断 AI ではなくスマホアプリ経由の慢性疾患管理。

「外来画像診断 AI に診療報酬を付ける」を国家保険でやったのは韓国が世界初に近い水準です。日本の中医協がこれを 2026 年改定でどこまで取り込めるかが、令和 8 年度改定の見えない論点になっています。


Samsung Medical Center が世界の臨床現場を変えた

韓国の AI 医療を技術主導で引っ張ってきたのは、ソウルの三大病院です。

Samsung Medical Center (삼성서울병원、SMC) — サムスングループの病院ネットワークの旗艦。1,979 床。AI 研究室 (AI 医療研究センター) を 2018 年に設立し、放射線科で Lunit / VUNO の臨床評価を初期から担当しました。

Asan Medical Center (서울아산병원、Asan) — 韓国最大の単一病院 (2,704 床)。年間 CT 件数 30 万件超。スループット世界最大級。Asan が運用環境で実際に評価した AI モデルは MFDS 承認の事実上の前提条件になっています。

Severance Hospital (세브란스병원) — 延世大学医療院。神経画像と心臓画像の AI 評価で先行。

3 病院に共通するのは、外資系 vendor の代理店ではなく、自前で AI を評価して国産モデルに投資し、国内ベンダーを育てる構造を 10 年以上維持してきたこと。Siemens / GE / Philips / Canon / Fujifilm が 7 大都市の主要病院を握る日本との差です。

韓国の AI 医療スタートアップが MFDS 承認まで到達するパスはほぼ決まっています。Asan か SMC か Severance のいずれかで臨床評価 → 査読論文 → MFDS 承認 → HIRA 償還交渉。

このパスが定型化していることが、149 件という数字を作った下部構造です。


4 つの観点から見る韓国モデル

質担保

MFDS の承認は FDA や CE Mark に比べて簡素ではありません。リアルワールド・データに対する性能要件 (sensitivity / specificity / AUC) が明文化されていて、承認後も periodic re-evaluation (定期再評価) が義務。

韓国の特徴は、承認の早さと厳しさが両立している点です。承認件数が世界最密度なのに、品質基準は緩めていない。Asan / SMC / Severance での前評価が事実上の予選になっているからこの両立が成立します。

心理負担軽減

韓国の放射線科医はもともと labor productivity が高い (1 日の読影件数が世界最多級)。AI 補助はこれをさらに加速させ、二次読影 (double reading) の負担を減らす方向に使われています。

Lunit INSIGHT CXR の使い方として最も普及しているのが「初読を AI、最終確認を放射線科医」。これにより放射線科医の認知負荷が顕著に軽減したという報告が SMC / Asan の論文で複数出ています。

効率化

胸部 X 線 1 枚あたりの読影時間。AI なしで平均 30-90 秒、AI 補助で 10-25 秒。Lunit / VUNO の現場での実装報告。

検診センターでは胸部 X 線スクリーニング 1,000 枚を 1 日で消化できる規模。AI なしだと放射線科医 3-4 人が必要、AI 補助で 1-2 人で対応可能。

ライセンス活用

韓国は放射線科医の数が日本と同程度 (人口あたり)、技師の数が日本より少ない。AI で技師の labor saving は重要度が低く、医師の labor productivity 向上に投資が集中しています。これが日本と韓国の AI 医療戦略の最大の差です。

日本は「技師労働力の再分配」、韓国は「医師の労働生産性の最大化」。同じ AI 技術を使っても出口の問題設定が違います。


HealthHub と日本接続

ここから先は連載の中で唯一、私が直接の関係者として書ける部分です。

私は HealthHub Co. Ltd (서울、ソウル) の日本市場責任者を務めています。HealthHub は韓国国内の AI 医療診断ソリューションプロバイダーで、Lunit / VUNO 等の韓国 AI 医療機器を統合運用するプラットフォームを病院向けに提供しています。

日本市場への展開で Gloversal (株式会社グローバーサル、東京) が exclusive partner となっており、私が日本側の責任者として、韓国の AI 医療資産を日本の医療現場に展開するルート設計を担当しています。

書ける範囲で言うと、韓国の AI ベンダーが日本に来るときの最大の障壁は二つ。一つは PMDA 承認 (MFDS 承認の同等承認はあるがオートマチックではない)、もう一つは病院側の運用統合 (PACS / RIS / 電子カルテとのインターフェース)。

韓国モデルがそのまま日本で動くわけではない。日本の保険償還構造、医師・技師の labor 配分、病院の購買サイクルに合わせた再パッケージが必要です。

連載第 14 回 (日本の保険償還)、第 17 回 (JART)、第 24 回 (日本提言) で、この韓国 → 日本のトランスミッション・パスをもう少し具体的に扱います。


残された問い

韓国モデルから日本が学べるものは多いです。同時に、そのままコピーできないものもあります。

韓国は人口が小さくて市場が小さいから「最初から輸出」を前提に設計できた。日本は国内市場が大きいので、輸出を後回しにしてきました。結果、PMDA 承認は国内特化で進み、海外の臨床評価データを集める構造を作らなかった。これが現状の構造的弱みです。

韓国は政府が「国家戦略輸出産業」と明確に位置付けたから、規制 / 投資 / 病院 / スタートアップが一直線に並んだ。日本では AI 医療がどの省庁の所管かが曖昧 (厚労省 + 経産省 + デジタル庁 + AI 戦略本部) で、戦略の整合性が取れていません。

韓国は HIRA が画像診断 AI に診療報酬コードを付けた。日本の中医協は 2026 年改定で +3.09% の医療 DX 投資を決めましたが、AI 補助に対する個別の請求コードはまだ整理されていません。

第 24 回でこのあたりを構造的にまとめます。


次回 (第 10 回) はシンガポール。AimSG という政府主導の vendor neutral national platform。1 日 700 件の Teleradiology を 45 秒で配分する仕組み。シンガポール保健省と SingHealth × Philips の MOU。「小国 + 政府主導」のもう一つのモデルです。


出典



著者: LifeLink Insights | 監修: YOSHI.TOMO FURUSAWA Gloversal, Inc. CEO — "Turning healthcare technology into human-centered operations." https://gloversal.com/

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