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Episode 17 of 24

JART は 6.5 万人を代表する職能団体。8.6 万人の craft を、どこへ運ぶのか

JART (日本放射線技師会、Japan Association of Radiological Technologists)。1947 年設立、加盟者約 6.5 万人 (技師全体 8.6 万人の 約 75%)。

Edited by YOSHI.TOMO FURUSAWA · Gloversal, Inc. CEO
2026-08-28·10 min read·Tokyo
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JART (日本放射線技師会、Japan Association of Radiological Technologists)。1947 年設立、加盟者約 6.5 万人 (技師全体 8.6 万人の 約 75%)。

第 17 回は JART を解剖します。連載の中盤で繰り返し触れてきた「技師業務範囲の拡大」「Reporting Radiographer 不在」「AI 教育の必修化」「健診 AI の制度化」は、すべて JART の動き次第で大きく変わります。8.6 万人の craft が試される時代に、JART は何を選ぶのか。

これは批判ではなく、構造の話。JART は法改正の主体ではないし、診療報酬を決める主体でもない。でも、JART が動けば連動して動く制度がいくつもある。逆に動かなければ、技師さんの craft が制度的に位置づけられないまま AI 時代を迎えることになります。


1. JART の構造

JART は 47 都道府県技師会の連合体で、本部は東京。組織構造の概要:

  • 会長 (任期 3 年、選挙制)
  • 副会長 + 理事会 + 監事
  • 各部門委員会 (生涯教育・学術・国際・倫理・福祉等)
  • 47 都道府県技師会 (各都道府県で独立法人格)
  • 加盟者数: 約 65,000 人 (2024)

加盟率 75% は職能団体としては高水準。残り 25% は退会・未加入で、現役技師の多くは JART 加盟。年会費は約 13,000 円 (都道府県技師会会費含む)。

JART の機能は大きく 4 つあります。

  • 生涯教育 (CPD) プログラムの運営
  • 学会発表・研究助成
  • 厚労省・文科省への意見書提出
  • 国際連携 (アジア技師連盟・世界技師連盟)

2. 業務範囲拡大議論の歴史

JART が一貫して掲げてきたテーマの 1 つに「技師業務範囲の拡大」があります。具体的には次のとおり。

  • 一次読影 (病変の有無の最初の判定)
  • レポート作成 (医師の最終確認を前提とした下書き)
  • 静脈路確保 (造影剤注入時)
  • AI 結果の確認業務

このうち静脈路確保は 2018 年診療放射線技師法改正で実現しました (技師による末梢静脈路確保が条件付きで認められた)。残り 3 つは未実現です。

特に「一次読影」(英 Reporting Radiographer に相当) は 1990 年代から議論されていますが、JMA (日本医師会) との合意形成に至っていません。

JMA の伝統的立場は「読影は医師の専管領域」で、技師による一次読影は医師法 17 条 (医業の医師独占) に抵触する可能性があるという解釈。JART は「医師の最終確認を前提とした下書き」なら法的に成立すると主張、双方の溝は深いまま。

英 SCoR (英放射線技師協会) は 1995 年に Reporting Radiographer 制度を確立。30 年経った今、英 NHS の読影 workflow の一部を担っています。日本では同様の制度がない。


3. JART CPD と AI 教育の現状

JART の生涯教育 (CPD) プログラムは「JART 認定資格」制度を運用しています。

  • 一般教育 (基礎): 年 20 単位推奨
  • 専門教育 (CT / MRI / 超音波 / マンモ等): 各分野 10-20 単位
  • 認定技師 (CT 検査・MR 検査・血管造影・マンモ等の専門性): 5 年更新

特徴は「推奨」であって「必修」ではないこと。技師免許の維持に CPD 単位は法的に必要ありません。診療放射線技師法には CPD 必修規定がない (1951 年制定時の規定が現在まで概ねそのまま)。

AI 関連の CPD は 2022 年から少しずつ拡充されていますが、独立した「AI コース」が必修化されているわけではなく、選択型プログラムとして運用されています。受講者は AI に関心の高い技師さんに限られる。

第 15 回で書いた「米 ASRT が 2023 から AI CPD module を必修化、18 ヶ月で大きく動いた」というのは、JART がやろうと思えば 1-2 年でできる動きです。やっていない。


4. JART の AI 関連動向

JART 内部で AI 関連の動きはあります。

  • AI 委員会設置 (2022)
  • 国際連携での AI 情報交換 (ASRT・SCoR・KSRT 等との連絡)
  • 学術大会での AI セッション拡充
  • 「AI 利用ガイドライン」検討中 (発出時期未定)

ただし、これらは「AI を技師業務として制度化する」段階には至っていません。AI 委員会の活動は情報共有と研究支援が中心で、業務範囲拡大の制度設計や JMA との交渉に踏み込めていない。

なぜ踏み込めないのか。理由は構造的です。

  • JART 自身は法改正の主体ではない
  • JMA との関係が改善しないと業務範囲拡大は進まない
  • 47 都道府県技師会の温度差 (都市部と地方の温度差が大きい)
  • 厚労省への意見書提出は可能だが、強制力はない

つまり JART は「動こうにも動きにくい」構造の中にあります。これは JART の問題ではなく、職能団体という形式の限界に近い。


5. 国際比較

団体加盟者AI 関連動向
ASRT~168,000AI CPD module 必修化 (2023)
SCoR~33,000Reporting Radiographer 1995-、AI competency framework 2022
CAMRT~14,000Advanced Practice 推進、AI 統合
ASMIRT~11,000Reporting Radiographer 2010 年代-、AI 推進
KSRT~30,000CPD で AI 重点化
JART~65,000AI 委員会 2022 設置、必修化未実施

加盟者数で見ると JART は世界 2 位 (米 ASRT に次ぐ)。組織規模・財政基盤・人材は豊富です。動こうと思えば動ける資源は持っている。ただし制度設計と政治力学の面で、ASRT・SCoR と比べて慎重な動きが続いている。


6. JART が動くと連動するもの

JART が動けば連動して動く制度がいくつもあります。

  1. CPD AI 必修化 — JART 単独判断で実行可能。米 ASRT と同パターン
  2. JADHA・健診学会との AI 連携 — 健診市場での AI 利用ガイドライン共同策定
  3. 大学・専門学校の養成校 AI カリキュラム — JART がモデルカリキュラムを提案 → JSRT が承認 → 養成校が採用
  4. 国家試験 AI 出題 — JART が厚労省「診療放射線技師国家試験出題基準」改訂を提言
  5. 業務範囲拡大の段階的実現 — 静脈路確保 (2018) の成功パターンで「AI 結果確認」を次の段階として位置づけ

このうち (1) は最速・最大効果で、JART 内部の意思決定だけで動かせます。米 ASRT が 2023 年に決断したのと同じ判断が、JART でも可能。


7. JART を動かす 5 つのレバー

外部から JART を動かしうるレバーを整理すると、次の 5 つに収まります。

  1. 内部リーダーシップ — 会長選挙・理事会構成。AI 推進派が主導権を取れば動きが加速
  2. 都道府県技師会連携 — 47 技師会のうち先進的な数県 (東京・大阪・福岡等) が AI 推進をリード、本部が追随
  3. JMA との対話再開 — 静脈路確保 (2018) の成功体験を起点に、医師業務との協働モデルとして提案
  4. 厚労省・文科省連携 — 第 14-15 回で書いた政策レバーと連動
  5. AI vendor・大学病院との連携 — Lunit・富士・PFN 等と JART が共同で「現場の craft が活きる AI」のあり方を提示

これらのレバーは互いに連動します。例えば内部リーダーシップが AI 推進派になると、都道府県連携と JMA 対話が同時に動きやすくなる。


8. 結論: JART は鍵を持っている

8.6 万人の技師さんの craft が試される時代に、JART は鍵を持っています。法改正の主体ではないけれど、技師の業務・教育・資格・継続学習を実質的に方向づける唯一の組織。

JART の動きは慎重な蓄積の歴史です。これは批判すべきものではなくて、職能団体としての伝統と責任感の表れ。ただし、AI 時代の craft が試されるスピードと、JART の伝統的な慎重さの間に、ギャップが広がっているのは事実です。

第 24 回の日本提言で詳しく扱いますが、JART の動きが連載の最終的な提言の中心になります。技師さん 1 人の craft をどう制度化するか、その鍵は JART にある。


9. 残された問い

  • JART AI 委員会の活動内容と、業務範囲拡大議論への接続は?
  • 静脈路確保 (2018) の成功パターンを「AI 結果確認」に応用できるか?
  • 都道府県技師会のうち、AI 推進をリードできるのはどこか?
  • JMA との対話を再開する具体的なきっかけは?
  • JART CPD AI 必修化の意思決定プロセスはどうなっているか?

第 18 回は Pepper と日本のロボット医療幻想です。なぜ Pepper は日本の医療現場で普及しなかったのか、その失敗から何を学ぶべきか。第 III 幕の最終回。


著者: LifeLink Insights | 監修: YOSHI.TOMO FURUSAWA Gloversal, Inc. CEO — "Turning healthcare technology into human-centered operations." https://gloversal.com/

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