craft を育てる場所が、craft が試される時代に追いついていない
放射線技師の養成校。全国に 65 校あります。 4 年制大学が約 30 校、3 年制短期大学・専門学校が約 35 校。年間入学定員は合計で約 4,500-5,000 人 (文科省学校基本調査 2024)。国家試験合格率は約 80%。年間で新しい技師さんが 3,500 人くらい誕生しています。
放射線技師の養成校。全国に 65 校あります。
4 年制大学が約 30 校、3 年制短期大学・専門学校が約 35 校。年間入学定員は合計で約 4,500-5,000 人 (文科省学校基本調査 2024)。国家試験合格率は約 80%。年間で新しい技師さんが 3,500 人くらい誕生しています。
第 15 回の問いは 1 つです。この 65 校のカリキュラムは、AI 時代に技師さんの craft が試される現実に追いついているか。
結論を先に書くと、追いついていません。理由は大学・専門学校の責任ではなくて、文科省の指定規則と JART のモデルカリキュラムが、まだ AI を中心に据えていないから。craft を育てる場所が、craft を試される現実から数年遅れている、というのが今のところの実態です。
1. 放射線技師養成校 65 校の AI 教育
放射線技師養成校のカリキュラムは、文科省「診療放射線技師学校養成所指定規則」と日本放射線技術学会 (JSRT) のモデルカリキュラムに従って設計されます。
指定規則上の必修科目は: 解剖学・生理学・病理学・物理学・電気電子工学・放射線生物学・放射線計測学・撮影技術学・診療画像機器学・MRI 検査技術学・超音波検査技術学・核医学検査技術学・放射線治療技術学。
問題は「AI / 機械学習 / データサイエンス」が、必修にも JSRT モデルカリキュラムにも、独立した科目として位置づけられていないこと。
実際の運用は次のようになっています。
- 4 年制大学: 「医療情報学」または「画像情報処理学」の中で AI を 2-4 コマ扱う大学が増加中。AI 専門科目を独立で持つのは数大学のみ
- 3 年制短大・専門学校: 時間数の制約で「医療情報学」自体がオプション科目、AI を扱える時間は実質ゼロ
- 国家試験: AI / 機械学習関連の出題はほぼゼロ (画像処理基礎の中で線形代数・フーリエ変換が出る程度)
つまり、年 3,500 人の新卒技師さんが、AI に触れずに国家試験に合格して現場に出る、というのが標準ルート。AI を学んでいる学生は学校外 (個人学習・大学院・オンラインコース) で身につけているのが実情です。
2. 医学部の AI 教育
放射線科医を育てる場所、つまり医学部 + 専門医研修プログラムでの AI 教育も似た構造です。
医学部 (全国 82 大学) の medical AI 必修化状況:
- AI / 機械学習を必修科目として設置: 10 校未満 (文科省 2024 調査)
- 選択科目で AI コースを持つ: 約 30-40 校
- 臨床実習で AI を扱う機会あり: 数校
放射線科専門医研修プログラム (3 年制、研修指定病院 約 350 施設) の AI コンテンツ:
- JRS (日本医学放射線学会) の研修要綱に AI 関連項目が追加されたのは 2022 年
- 必修ではなく「望ましい」レベル
- 実質的な AI トレーニングは研修病院の自主性に依存
国際比較で見ると、米 ABR (American Board of Radiology) は専門医試験に AI セクションを 2024 年から追加、英 RCR (Royal College of Radiologists) は AI competency framework を 2022 制定、研修プログラム必修化。日本は議論段階です。
3. 看護学校 — ほぼ AI から隔離
看護師は日本に約 130 万人、看護学校・看護大学は 1,000 校超 (大学約 270、短大・専門学校 約 750)。看護教育における AI コンテンツはほぼ存在しません。
これは奇妙な現状です。Ambient AI (患者音声記録)、AI トリアージ、AI 服薬管理、AI 患者モニタリングなど、看護師が日常的に AI と接する場面は急速に増えているにもかかわらず、養成段階では扱わない。
国際比較:
- 米 AACN (American Association of Colleges of Nursing) は 2024 年に nursing AI competency 必修化を勧告
- 英 NMC (Nursing and Midwifery Council) は AI module を pre-registration nurse curriculum に統合中
- 日本: 厚労省看護課・日本看護協会で議論中、必修化未定
第 14 回で取り上げた「6 部屋」の構造で言うと、看護教育は文科省 (大学) + 厚労省 (専修学校) + 都道府県 (養成所) と管轄が分散していて、AI を必修化するには複数の所管官庁の合意が必要です。
4. 国際比較 — craft を育てる仕組みの差
| 国 | 技師養成 AI 教育 | 医師養成 AI 教育 | 看護養成 AI 教育 |
|---|---|---|---|
| 米国 | ASRT が 2023 から AI CPD module 必修化 | ABR 専門医試験に AI セクション (2024-) | AACN 2024 勧告 |
| 英国 | SCoR が AI competency framework (2022) | RCR 専門医研修必修 (2022-) | NMC 統合中 |
| 独 | BfMP AI module 養成校統合 (2024) | BÄK (連邦医師会) AI 研修推進 | 議論段階 |
| 韓国 | AI 必修ではないが、KSRT の継続教育で重点化 | 大韓医学放射線学会 AI 研修 | 議論段階 |
| 日本 | 養成校で実質ゼロ、JART CPD で選択 | JRS 研修「望ましい」、必修化未定 | ほぼ未着手 |
「craft を育てる場所」の話で言うと、米英独韓はすでに養成段階か研修段階で AI を学ぶ仕組みを持ち、日本だけが養成段階での AI 教育を制度化していません。
5. craft を育てる場所が追いついていない、の含意
技師さん 1 人が現場で「AI を使いこなせるか」は、3 つの要因で決まります。
- 養成校で AI の基礎を学んだか
- 卒後研修・継続教育で AI に触れているか
- 病院に AI が導入されていて、日常業務で触っているか
日本の場合、(1) は 65 校の大半でほぼゼロ、(2) は JART の CPD コースが選択制で実質的に積極的な技師さんしか触らない、(3) は導入病院に偏在。
つまり、AI を使いこなせる技師さんは「自分で勉強した」「AI 導入病院に勤務した」「JART CPD を積極的に受けた」の 3 条件のいずれかを満たした人に限られる。これは、craft の育成が制度化されているというより、個人の努力に頼り切った状態です。
第 13 回で書いた「技師さん 8.6 万人の craft が試される時代」と、この第 15 回の「craft を育てる場所が追いついていない」を組み合わせると、不安なシナリオと、希望のシナリオが両方見えます。
不安なシナリオ: AI が現場に来たとき、「AI を使いこなせる少数の技師さん」と「使いこなせない多数の技師さん」に分裂し、後者が周辺化される。
希望のシナリオ: 8.6 万人の蓄積した case 経験は、AI 教育を制度化すれば 2-3 年で底上げできる。米 ASRT が 2023 から開始した AI CPD は、現役技師の AI リテラシーを 18 ヶ月で大きく動かしたという報告がある (ASRT 内部調査 2024)。日本も同じパターンが可能。
ボトルネックは制度設計です。技師さんの能力ではない。
6. 残された問い
- 文科省「診療放射線技師学校養成所指定規則」に AI / データサイエンスを必修化する見通しは?
- JSRT モデルカリキュラム改訂はいつ?
- 国家試験に AI / 機械学習関連問題を追加する圧力はどこから来るか?
- JART CPD の AI モジュールを必修化する制度設計は?
- 医学部・看護学校との連携 AI 教育の可能性は?
第 16 回は健診の現実です。年間 5,000 万件の胸部 X 線、健診センター労働、JADHA (日本人間ドック・予防医療学会)、健診学会。最も大量の業務が、最も AI 化に向いている領域での実態。
著者: LifeLink Insights | 監修: YOSHI.TOMO FURUSAWA Gloversal, Inc. CEO — "Turning healthcare technology into human-centered operations." https://gloversal.com/